では、前項に引き続き ”修理” に挑戦してみよう。調子が悪くなった自分の機材をいじってみたことはあるが、あまりいい思い出はない。”どうなってもいいから”ってことで引き受けたが、接触が悪いとかショートしてるとかの単純な問題でなければ、たぶん手も足も出ないだろう。本格的に壊れてたら基板のパターンもわかったことだし基板を丸ごと作り直して移植してみようか。
などと考えながら、まずは電源を入れる前に導通チェックからしてみることにした。前項で検証したので何がどこに繋がってるか回路図と基板に打たれた番号を照らし合わせて一目瞭然だ。インプットジャック、アウトプットジャック、DCジャック、電池スナップ、各ポット、エフェクトスイッチの導通をテスターで確認する。それぞれ、断線もショートもしてないようだ。ポットもまわすと抵抗値が変化する。
これは、いよいよ基板上のパーツの問題か?だとしたらちょっと手が出ないかもしれない。ほんとに基板移植か? しかし、そんな事して音が出たとしても、それはOD-1 なのか?ブラックジャックに脳みそを移植された人のようなものだぞ。少なくとも ”修理” ではないな。
とにかく電源を入れずに確認できるのはここまでだ。電源を入れてみてどんな風になるのか症状を確認しよう。スイッチを押すとLEDは点灯するようだ。ちょっと欠けてるが、けなげに光っている。やや暗い気がするが省エネ重視設計のせいだろう。
で、音は? バイパス音は問題なく出るぞ。
エフェクトonにしてみる。
え??
普通に音出ますけど ???
これは故障してたのか ????
そして俺は ”修理” したのか?????
??????
なにはともあれ、なんとなく解決したらしい。たぶんどっかショートしてたのがいじってるうちに解除されたのだろう。このまま返すのはあまりにも申し訳ないので劣化している電池スナップは交換しておこう。ヴィンテージ機材なので下手に手を加えるのもいけないと思うがこれで音が変わったりはしないだろう。プラス側はDCジャックに、マイナス側はインプットジャックに繋がっているが外すのに結構苦労した。ちゃんと端子の穴にからげて半田付けしてある。
ペダルの固定ネジはM3サイズでよさそうだが、ネジ山がつぶれているようだ。タップを切り直してM3ネジを通すと一応固定できるようになった。電池交換にいちいちドライバーがいるが許してもらおう。
意味はないが、銀ネジ仕様になった。
OVER DRIVEのつまみが曲がっていたが、どうもポットのシャフトそのものが曲がっている訳ではなく、つまみの内側が割れてグラグラしているだけのようだ。これも音とは関係ない部分なので手持ちのBOSS風のつまみに交換しておこう。インチ規格のつまみなのでちょっとつまみ側の穴が大きいがネジ固定なので固定には問題ない。ビニルテープでちょっと補正はしたが軸が少しずれるのは勘弁してもらおう。
ところで、歪んだ音は出ているが、これは正常に動作している状態なのだろうか?前項に出たSERVICE NOTESにはtest signalとして200Hz, 80mVの方形波を入れたときの波形が載っている。うちの安物デジタルオシロでもある程度わかるだろう。せっかくなので自作のOD-1もどきと比較しながら見てみることにした。USB端子が付いてるので、おそらくPCに波形を出力する芸当も持っているのだろうが、方法がよくわからないのでデジカメで撮った画像で勘弁願おう。
どうでもいいが、デジタルオシロをデジタルカメラで撮るのに、デジタルな気がしない。
まずは、バイパス波形。左がPaul機で、右がもどき。うん?方形波を入れてるはずなのに斜めってるぞ?BOSSはバイパス音もバッファを通るので、その時に直流をカットしてるから方形波だとこんな風になるんだな。もどきはトゥルーバイパスなのでそのまま出ている。なんか勝った気分だ。バイパス音は負けてないぞ!!
次は、エフェクトon、LEVEL 10、OVER DRIVE 0の波形。左がPaul機で右がもどき。波形自体はどちらもSERVICE NOTESに載ってる波形に似ている。 オシロのレンジが違うのでPaul機の方が大きな振幅に見えるがPaul機が254mVでもどきが600mV。もどきの方がでかい音が出ている。
次は、LEVEL 10、OVER DRIVE 10の波形。左がPaul機で、右がもどき。波形は同じ感じでSERVICE NOTEとも似ている。
Paul機が608mV、もどきが1280mVでこれももどきの方が大きな音だ。
参考までに入力波形をサイン波にしてみよう。同様に左がPaul機、右がもどき。波形は同じ感じに見える。
これもレンジが違うのでPaul機の方が大きな振幅に見えるがPaul機が576mV、もどきが1192mVでもどきの方がほぼ倍で出ている。
これをFFTにかけてみるとこんな感じ。もどきの方が高域成分が多いので高次の歪みが多く出てるのかな?クローンとしては好ましくないことだろうがあまりこだわりはない。
もどきは振幅が大きく出ているが、OP Ampの二段目の定数を変えて2倍くらいのゲインを持たせていたのを思い出した。ブースターとしてはこの方がOVER
DRIVEを絞って使えるので好みだ。
ついでに、もう少し脱線してみよう。OD-1の回路構成だ。番号はOP Ampの足番号。
入力段、出力段はトランジスタ一石のエミッタフォロワ、インピーダンスを下げるだけで入力がそのまま出てくるはず。QuadタイプのOP Ampを使った初期バージョンではここもOP Ampを使っていて、非反転のボルテージフォロワになってる。
歪み段は非反転増幅の帰還部分にクリッピングダイオードを入れてる感じでTSやSD-1と基本的に同じ。
その次は、反転増幅になってる。ゲイン1倍で位相が反転するだけの波形が出てくるはず。もどきの定数を変えたのはこの部分で2倍ほどのゲインを持たせている。ここは、TSやSD-1ではトーンコントロールになっているところだ。TS、SD-1はたぶんここでは反転しないと思う。
回路図を見ていて以前から思っていた事がある。この構成を見る限り非反転が3つと反転が一つなのでOD-1の出力は位相が反転するのではないか? アンプを2台使って片方にOD-1を通すと変なことが起きそうな気がする。
せっかくの機会なので、入力波形と並べて確認してみることにした。
上の赤が入力のサイン波で、下の白っぽいのが出力。
意外なことに位相が少し遅れているように見えるが反転はしていない。
どういう事なのか、さっぱりわからない。もどきで、途中の部分の波形も見てみよう。
OP Ampの5番ピン、歪み段の入力部分の波形。
位相はちょっと進んでるように見える。
エミッタフォロワとカップリングコンデンサを通っただけなのにすでにちょっと歪んでる。
7番ピンの波形。歪み段の出口の部分。
位相はさらにちょっと進んでほぼ反転したように見える。
1番ピンの波形。反転増幅段の出口
ほぼ、出力と同じ波形になっている。反転増幅段では反転するだけのはずだったが7番ピンの波形よりちょっと丸くなってるので、少し高域が削られてるみたいだ。
ちなみに、自作のTube Screamerもどきの出力波形(Drive 10、tone 5)。こちらは少し位相が進んでる?というより、立ち上がり部分と立ち下がり部分が平たくなって頂点がずれた感じか?トーンを上げていくとさらに方形波に近くなっていく。
クリップしてるっていうより微分してる感じ??
位相がずれてるのか歪みの過程で波形の頂点がずれるのか、結局よくわからなかったが、少しづつ位相が進んでほぼ反転したのをOP Ampの2段目で反転させて補正しているようだ。最終的に位相がやや遅れる感じになるが、まるっきり反転しているわけでないらしい。
TSもどきは少し位相が進むみたいなので、OD-1と別にTSやSD-1を通して出すと、ほぼ逆相でミックスするようなことが起きるかもしれない。
TSもどきは位相だけでなく波形もOD-1とはだいぶ違うようだ。トーンを回しても同じような波形になるポイントはなかった。SD-1は試したことがないが、回路はTSとほとんど変わらないらしいので同じような感じになるのだろう。波形の違いがどれほどの意味を持つのかよくわからないが、やっぱりトーンコントロールが入ると調節範囲の問題とは違う、別の音になるような気がする。
OD-1は個体差や年代差が非常に大きいという噂だが、同じ回路なので、サイン波を入れたときの出力波形を目で見てわかるような違いはないと思う。たぶんこういうのでは見えない違いがあるのだろう。そして、おそらくOD-1やTS、SD-1の音を語るにはその違いの方がより重要なのだろう。残念ながら僕にはわからないけどね。
OD-1の音というのを知らないので何ともいえないが、Paul機は歪んだ音が出ている。波形から考えてもどうやら正常に動作していると考えてよさそうだ。いろいろいじって思いのほか堪能させてもらったが、”修理” が行われたか結局不明だ。”痛くもない腹をさぐられる”とはこの事かもしれない。たいへん申し訳ない感じだ。あらためて、Ace氏とPaul氏に感謝しよう。
とりあえず、今回はこれの出番はなかったようだ。ブラックジャックによろしく。
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